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IPOは吸収資金に注目
当該コラムは、2021年05月に「トレーダーズ・プレミアム」向けに掲載したものを加筆・修正しております。 「トレーダーズ・プレミアム」では定期的に新作コラムを掲載しております。 ぜひご加入をご検討ください。

IPOは吸収資金に注目

はじめに

 IPO(新規株式公開)は短期間で大儲けできることもありますが、必ず儲かるというものでもありません。 今回はどのような銘柄が大きく上昇したのか、逆にどのような銘柄が公開価格割れとなったのか、 19年のIPO( リート・インフラファンドは除く87社 )の結果から考察していきます。

初値が大きく上昇

 2019年の上昇率の上位10位をみると、吸収資金が少ない会社が多いことがわかります。 吸収資金が少ないということで需給がひっ迫し、初値が押し上げられたと考えられます。
 次に吸収資金が10億円を超える3社の事業内容を見てみます。サーバーワークスは、Amazon Web Services(AWS)のインフラ基盤構築、リセール、保守・運用代行を行っています。AI insideは、人工知能(AI)技術を用いた光OCRサービス「DX Suite」の提供などを行っています。 セルソースは、再生医療関連事業において、医療機関からの脂肪・血液由来の組織・細胞の加工業務受託などを行っています。AWS、AI、再生医療といった注目のキーワードが出てきました。この3社は事業内容も初値の上昇に大きく 影響を与えたと考えられます。

順位 上場日 銘柄名 コード 市場 公開価格 初値 上昇率 吸収資金
1 19/12/17 ウィルズ 4482 マザ 960 4,535 372.4% 3.5億
2 19/03/13 サーバーワークス 4434 マザ 4,780 18,000 276.6% 17.7億
3 19/12/25 AI inside 4488 マザ 3,600 12,600 250.0% 20.7億
4 19/03/29 Welby 4438 マザ 5,200 18,030 246.7% 9.8億
5 19/12/26 スポーツフィールド 7080 マザ 2,730 8,500 211.4% 9.5億
6 19/04/24 ハウテレビジョン 7064 マザ 1,210 3,745 209.5% 4.4億
7 19/06/21 ブランディングテクノロジー 7067 マザ 1,740 4,825 177.3% 2.7億
8 19/05/30 バルテス 4442 マザ 660 1,820 175.8% 7.9億
9 19/10/28 セルソース 4880 マザ 2,280 6,020 164.0% 12.6億
10 19/10/01 パワーソリューションズ 4450 マザ 2,000 5,110 155.5% 6.6億
初値が公開価格を下回る

 19年に初値が公開価格を下回った会社は9社でした。ランキングをみると吸収資金が多い会社が目立ちます。吸収資金は少ないのに初値が公開価格を下回った大英産業は福証上場、KHCは東証2部上場と上場市場がマイナス影響となった可能性があります。 また、大英産業はマンション事業や住宅事業を行っており、KHCは注文建築・分譲など事業子会社を有する持株会社となります。事業内容に目新しさがないことも影響したと考えられます。

順位 上場日 銘柄名 コード 市場 公開価格 初値 下落率 吸収資金
1 19/06/04 大英産業 2974 福証 1,520 1,330 -12.5% 6.8億
2 19/09/24 Chatwork 4448 マザ 1,600 1,480 -7.5% 156.4億
3 19/08/09 ステムリム 4599 マザ 1,000 930 -7.0% 96.6億
4 19/10/25 BASE 4477 マザ 1,300 1,210 -6.9% 108.0億
5 19/12/19 SREホールディングス 2980 マザ 2,650 2,475 -6.6% 136.7億
6 19/09/26 HPCシステムズ 6597 マザ 1,990 1,870 -6.0% 63.7億
7 19/12/12 メドレー 4480 マザ 1,300 1,270 -2.3% 205.7億
8 19/03/19 KHC 1451 東2 850 832 -2.1% 15.0億
9 19/11/01 ダブルエー 7683 マザ 4,690 4,680 -0.2% 48.5億
上場後の状況

 次に今回取り上げた会社の足元の株価を確認してみます。全体でみると吸収資金が少なく初値が好調だった会社の株価低迷が目立ちます。反対に、初値が公開価格を下回った吸収資金の多い会社の株価は比較的堅調となっています。
 その時々の相場の状況やその会社の事業内容にも大きく左右されるので、必ずそうなるとはいえませんが、吸収資金が少なく初値が好調となった会社を中長期で保有するよりも上場直後に売却したほうがよく、吸収資金が多く初値が不調だった会社を中長期で保有するほうがよさそうです。

■「初値が大きく上昇」した銘柄のその後
順位 上場日 銘柄名 コード 初値 修正現値※ 騰落率 吸収資金
1 19/12/17 ウィルズ 4482 4,535 5,136 13.3% 3.5億
2 19/03/13 サーバーワークス 4434 18,000 18,420 2.3% 17.7億
3 19/12/25 AI inside 4488 12,600 35,600 182.5% 20.7億
4 19/03/29 Welby 4438 18,030 5,784 -67.9% 9.8億
5 19/12/26 スポーツフィールド 7080 8,500 2,195 -74.2% 9.5億
6 19/04/24 ハウテレビジョン 7064 3,745 1,913 -48.9% 4.4億
7 19/06/21 ブランディングテクノロジー 7067 4,825 1,336 -72.3% 2.7億
8 19/05/30 バルテス 4442 1,820 1,913 5.1% 7.9億
9 19/10/28 セルソース 4880 6,020 42,660 608.6% 12.6億
10 19/10/01 パワーソリューションズ 4450 5,110 2,250 -56.0% 6.6億
※「順位」は初値決定時のままです。
修正現値は2021年4月15日の終値ですが、分割が行われている場合は分割比率を乗じて現値を修正し比較可能としています。
順位 上場日 銘柄名 コード 初値 修正現値※ 騰落率 吸収資金
1 19/06/04 大英産業 2974 1,330 1,060 -20.3% 6.8億
2 19/09/24 Chatwork 4448 1,480 1,406 -5.0% 156.4億
3 19/08/09 ステムリム 4599 930 777 -16.5% 96.6億
4 19/10/25 BASE 4477 1,210 10,515 769.0% 108.0億
5 19/12/19 SREホールディングス 2980 2,475 5,690 129.9% 136.7億
6 19/09/26 HPCシステムズ 6597 1,870 2,980 59.4% 63.7億
7 19/12/12 メドレー 4480 1,270 4,275 236.6% 205.7億
8 19/03/19 KHC 1451 832 602 -27.6% 15.0億
9 19/11/01 ダブルエー 7683 4,680 3,445 -26.4% 48.5億
※「順位」は初値決定時のままです。
修正現値は2021年4月15日の終値ですが、分割が行われている場合は分割比率を乗じて現値を修正し比較可能としています。
まとめ

 ここまでの結果から、注目すべきは吸収資金であると考えます。IPOでは、吸収資金が少ないほど初値が飛びやすく、吸収資金が多ければ初値が軟調となりやすいといえます。中長期では、吸収資金が少なく初値が好調だった会社の株価低迷が目立ち、初値が公開価格を下回った吸収資金の多い会社の株価の堅調が目立ちました。
 IPOで短期勝負をするなら吸収資金が少ないものを狙うべきでしょう。ただし、吸収資金が少ないIPOでも、2部上場や地方市場上場である場合や目新しさのない業態(成熟業態)の場合は公開価格割れとなることがありますので、当選しても購入しないということも選択のひとつです。
 中長期での成長を享受したいなら、吸収資金の多いものを狙うべきでしょう。吸収資金が多い場合はIPOの参加者も多く、初値形成時点で売りに出される株数も多くなりがちであることから、初値はふるわないことがよくあります。しかし、調達資金を投資に回し、事業を成長させることができれば、それに伴い株価も上昇すると考えられます。
 吸収資金だけですべてが説明できるわけではありませんが、アプローチのひとつとして有効です。IPOはもちろん、直近上場株のセカンダリーを狙う場合でも、吸収資金に注目するようにしてください。

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